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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)84号 判決

第二四号事件控訴人・第八四号事件被控訴人(第一審原告。以下「一審原告」という)

峯憲一

右訴訟代理人弁護士

藤田太郎

森勝治

第二四号事件被控訴人・第八四号事件控訴人(第一審被告。以下「一審被告」という)

塚本證券株式会社

右代表者代表取締役

塚本忠治

右訴訟代理人弁護士

米田実

辻武司

松川雅典

四宮章夫

田中等

田積司

米田秀実

阪口彰洋

主文

一  一審原告の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

(一)  一審原告の主位的請求を棄却する。

(二)  一審被告は一審原告に対し、金四九九一万四五〇七円及びこれに対する昭和五八年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  一審原告のその余の予備的請求を棄却する。

二  一審被告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを六分し、その五を一審原告の、その余を一審被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項(二)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

一一審原告

1  原判決を次のとおり変更する。

(主位的請求)

一審被告は一審原告に対し、原判決添付別紙株券目録記載の株券と同一銘柄、同一数量の株券を引き渡せ。

(予備的請求)

一審被告は一審原告に対し、金二億九六九一万一九〇〇円及びこれに対する昭和五八年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審被告の控訴を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて、全部一審被告の負担とする。

二一審被告

1  一審原告の控訴を棄却する。

2  原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。

3  一審原告の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審を通じて、全部一審原告の負担とする。

第二事案の概要

次のとおり訂正するほか、原判決「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

一原判決三枚目表七行目の「それぞれ」の次に「一審被告を通じて」を加える。

二同五枚目表一二行目の「株式会社犬印本舗(以下「犬印本舗」という。)」を「犬印本舗」と改める。

三同六枚目表末行目の「一月」を「一一月」と改める。

第三証拠〈省略〉

第四当裁判所の判断

次のとおり付加、訂正するほか、原判決「第三 判断」と同一であるから、これを引用する。

一原判決一四枚目表末行目に「当審証人髙杉征二の証言も、また右事実を証するに足りない。」を加え、同一五枚目表二行目の「借りたこと」から同三行目の「その代金」までを「借りたうえ、同月二五日ころ、同株券を光信企業を通じ、またはいったん光信企業から返還を受けたのち髙杉自身によって、それぞれ他へ売却処分し、これらの代金」と改める。

二同一五枚目表八、九行目の「したがって」から同裏一行目までを、次のとおり改める。

「しかしながら、証券会社の外務員が、その属する証券会社を通じて継続的取引関係にある顧客から、その所持する株券について名義書換手続を依頼され預託を受けることも、なお証券取引法六四条に定める「取引」に付随する業務として外務員の職務権限に属するというべきであり、このことは、たとえ右名義書換手続が顧客に対するサービスとして、当該証券会社を通じることなく、外務員によって直接株券を名義書換代理人のところへ持ち込む方法が採られる場合においても、右外務員が証券会社の使用人たる立場を離れ、顧客との個人的関係に基づいて行動しているとの特別の事情の存在することが認められない限り同様であると解されるところ、本件において右特別の事情の存在することを認めるに足りる証拠はないから、髙杉が一審原告から本件三菱重工株券の預託を受けたことは、一審被告の外務員としての権限の範囲内の行為に属するものというべきである。

もっとも髙杉は、前記のとおり、当時他の顧客に対する損失の補てんによる債務の返済に窮しており、本件三菱重工株券を自己の借金の担保として流用する意図を有しながら、これを秘して、一審原告から右預託を受けたことが認められる(当審証人髙杉)から、髙杉の右行為はその職務権限を濫用したものといわなければならないところ、後記のとおり(原判決二三枚目表五行目から同裏二行目まで)一審原告は同株券の右預託について、一審被告の発行する正式の預り証の交付を受けることもなく、その発行を求める意思もなかったというのであるから、一審原告においては、右預託にあたり、髙杉が自己の権限を濫用して同株券を領得する意思があったことを知らなかったが、そのことにつき過失があったというべきであるのみならず、右株券はすべて髙杉によって他に処分されたことも前記認定のとおりであるから、同株券の返還を求める一審原告の主位的請求は理由がないというべきである。」

三同一五枚目裏六、七行目の「不法行為が」から末行目までを次のとおり改める。

「受託は、外形的にみて外務員である髙杉の権限の範囲内に属し、一審被告の「事業ノ執行」につきなされたものと認めるのが相当であり、右預託にあたり、一審原告において髙杉が同株券を領得する意思があったことを知らなかったことにつき重大な過失があったとは認められないことは、他の本件各株券(本件厚木ナイロン株券を除く)について判示したところと同様であるから、髙杉の使用者である一審被告は一審原告に対し、髙杉の右不法領得により生じた損害を賠償する義務があるというべきである。

ところで本件三菱重工株券六万五〇〇〇株の処分によって一審原告が被った損害は、右処分のころにおける同株券の時価(一株一九四円を下らない、乙第四〇号証の二)である一二六一万円と認められるところ、同株券を髙杉に領得されたことによる右損害の発生について、一審原告には前記の過失があるから、一割の過失相殺を行うのを相当と認め、一審被告は一審原告に対し、右損害金一一三四万九〇〇〇円及びこれに対する髙杉の不法行為ののちである昭和五八年一一月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う責任がある。なお一審原告が同株券について一審被告に対し損害賠償を請求することが、権利濫用にあたるという事情はない。」

四同二一枚目表一一行目の「一〇」を「九」と改める。

五同二四枚目表一行目末尾、同三一枚目裏六行目末尾、同三九枚目表一一行目末尾、同四四枚目裏三行目末尾及び同五一枚目裏二行目末尾にそれぞれ「なお、これらの株券は、髙杉によって他へ処分されてしまったことも前記認定のとおりであるので、この点からも一審原告の主位的請求は理由がない。」を加える。

六同二六枚目表から二七枚目表にかけての本件ツガミ株券及び本件ミドリ十字株券の損害額についての認定を次のとおり改める。

①  本件ツガミ株券の時価相当額六〇〇万円(一株三〇〇円、乙第四四号証の二)

同 過失相殺後の認容額 三九〇万円

②  本件ミドリ十字株券の時価相当額 四五九万円(一株一五三〇円、甲第七四号証)

同 過失相殺後の認容額

二九八万三五〇〇円

③  以上合計  六八八万三五〇〇円

七同二六枚目裏一〇、一一行目の「本件ツガミ十字株券」を「本件ミドリ十字株券」と、同二七枚目表一一行目の「四の一」を「四の二」と、「第二八号証の、」を「第二八号証の」と、それぞれ改める。

八同三二枚目裏から三三枚目裏にかけての本件宇部興産株券及び本件セーレン株券の損害額についての認定を次のとおり改める。

①  本件宇部興産株券の時価相当額四八〇万円(一株一六〇円、甲第七四号証)

同 過失相殺後の認容額 三一二万円

②  本件セーレン株券の時価相当額一八六万円(一株一八六円、甲第二〇号証)

同 過失相殺後の認容額

一二〇万九〇〇〇円

③  以上合計  四三二万九〇〇〇円

九同三五枚目裏末行目の「乙」を「甲」と改め、同三九枚目表四行目の「前記三」の次に「2」を加える。

一〇同四〇枚目表から四一枚目裏にかけての本件山村硝子株券、本件松下通信株券、本件ホーヤ株券、本件アサヒビール株券の損害額についての認定を次のとおり改める。

①  本件山村硝子株券の時価相当額八八万円(一株一七六円、乙第四五号証の三)

同 過失相殺後の認容額

五七万二〇〇〇円

②  本件松下通信株券の時価相当額一三三万一五五〇円(一株二六九〇円、甲第二〇号証)

同 過失相殺後の認容額

八六万五五〇七円

③  本件ホーヤ株券の時価相当額九五万円(一株九五〇円、同号証)

同 過失相殺後の認容額

六一万七五〇〇円

④  (本件三和銀行株券については、原判決認定のとおり。ただし、認定の根拠を「甲第二〇号証」と改める。)

⑤  本件アサヒビール株券の時価相当額 六三二万円(一株三一六円、同号証)

同 過失相殺後の認容額

四一〇万八〇〇〇円

⑥  以上合計  九四一万三〇〇七円

一一同四三枚目裏二行目の「乙第二号証の五九の一」を「乙第二号証の五九」と、三行目の「六一の一、二、同号証の六二」を「六一、六二」と改める。

一二同四五枚目裏八行目の「(このことは公知の事実である。)」を「(甲第二九号証)」と改める。

一三同四七枚目表一〇行目の「売却し、」の次に「同月二〇日にその引渡しがなされ、」を加える。

一四同四七枚目裏一一行目の「したことは認められるものの」を「したことが認められ」と改め、同四八枚目表一行目の「差し入れるというのであって」から同七行目までを次のとおり改める。

「差し入れるというのであるが、髙杉に対する同株券の右預託が外形的に一審被告の外務員である髙杉の職務権限の範囲内に属する行為であること、髙杉は右株券を不法に領得する意図を有していながらこれを秘していたこと、一審原告において髙杉が同株券を領得する意思を有していたことを知らなかったが、知らなかったことにつき過失があること並びに右株券が髙杉によって処分されてしまったこと、以上の点は本件三菱重工株券についての主位的請求に対する前記判示と同様である。したがって本件川崎製鉄株券に関する主位的請求は、同様に理由がない。」

一五同四八枚目表九行目の「個人的に」を削り、一一、一二行目の「ものとは認められない。」から同裏二行目までを次のとおり改める。

「ものと認められることは、本件三菱重工株券についての予備的請求に対する前記判示と同様である。また一審原告において髙杉が本件川崎製鉄株券を領得する意思を有することを知らなかったことにつき、重大な過失があったとはいえないことは、他の本件各株券(本件厚木ナイロン株券を除く)についてと同様である。

したがって一審被告は、本件ツガミ株券におけるのと同様に、犬印本舗に帰属する本件川崎製鉄株券を領得された一審原告に対し、これによって生じた損害を賠償する責任があるところ、右損害額はこれが第三者に売却されて引き渡された昭和五八年四月二〇日の時価(一株一六一円、甲第二〇号証)である八〇五万円と認められる。しかして一審原告には、右損害の発生について斟酌されるべき過失があり、その割合を三割五分とするのを相当とすることは他の本件各株券(本件三菱重工株券及び本件厚木ナイロン株券を除く)におけるのと同様であり、したがって一審被告は一審原告に対し、髙杉による本件川崎製鉄株券の領得について五二三万二五〇〇円及びこれに対する髙杉の不法行為ののちである昭和五八年一一月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う責任がある。なお一審原告が同株券について一審被告に対し損害賠償を請求することが、権利濫用にあたるという事情はない。」

一六同五二枚目裏から五三枚目表にかけての本件電気興業株券の損害額についての認定を次のとおり改める。

本件電気興業株券の時価相当額 一三〇〇万円(一株一三〇〇円、甲第四五号証)

同 過失相殺後の認容額

八四五万円

一七原判決中、「損失保証」とあるのを「損失補償」と、「慢然」とあるのを「漫然」と、それぞれ改める。

第五以上の次第で、本件各株券の引渡しを求める原告の主位的請求は理由がないが、本件各株券(本件厚木ナイロン株券を除く)を髙杉に領得されたことによる損害賠償(附帯請求を含む)を求める予備的請求は、本判決主文一(二)の限度で理由があるから、これを認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきものである。

よって、一審原告の控訴は一部理由があるから、右控訴に基づき原判決を右のとおり変更することとし、一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 古川正孝 裁判官 菊池徹)

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